はじめに
近年、インバウンド需要の高まりとともに、東京都豊島区でも民泊(住宅宿泊事業)の件数が急増しています。池袋エリアを中心に観光客が増え、住宅地と商業地が混在する豊島区特有の街の構造が、民泊ビジネスの拡大を後押ししてきました。しかし同時に、区民からの苦情や周辺住民の不安の声も増加し、行政としての対応が急務となっています。
本記事では、豊島区における民泊規制の最新動向を詳しく解説します。令和7年(2025年)12月15日施行の条例改正から、令和8年(2026年)12月16日施行の大幅な規制強化まで、これから民泊を始めようとする方も、すでに営業中のオーナーも必読の情報をまとめました。ぜひ最後までお読みいただき、今後の事業計画にお役立てください。
豊島区の民泊規制の背景と法的根拠

豊島区の民泊規制を正しく理解するためには、その背景にある法律や条例の構造を把握することが欠かせません。国の法律と区独自の条例がどのように組み合わさっているのかを理解することで、現在求められている対応の意味が見えてきます。
住宅宿泊事業法(民泊新法)の基本的な枠組み
住宅宿泊事業法(通称:民泊新法)は平成30年(2018年)6月15日に施行されました。この法律は、住宅を活用した宿泊サービスの提供を合法化するとともに、一定のルールのもとで事業を行うことを義務付けています。最も重要な点は、年間の営業日数が原則として180日を超えてはならないという制限です。豊島区においても、この法律に基づく届出が民泊事業開始の絶対条件となっています。
事業を行うには「住宅宿泊事業者」として都道府県知事(特別区においては区長)への届出が必要であり、豊島区の場合は区生活衛生課住宅宿泊対策グループ(TEL:03-4566-4095)が窓口となっています。届出は原則として国の「民泊制度運営システム」を利用した電子申請で行われます。書類不備があると受理されず、現在は申請件数が多いため、標識交付まで3か月以上かかる場合もあることに注意が必要です。
豊島区独自の上乗せ条例の概要
国の法律が定める規制に加えて、豊島区は「豊島区住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例」を制定し、区独自のルールを上乗せしています。条例の第18条を根拠として、用途地域による営業制限や営業期間の制限が可能となっており、豊島区はこの権限を積極的に活用する方針を打ち出しています。区民の生活環境保護を最優先に考えた政策判断といえます。
条例改正の検討にあたっては、「住宅宿泊事業にかかわる条例改正等検討会」が令和7年9月9日、10月23日、令和8年6月8日の計3回にわたって開催されました。この検討会を通じて関係機関との連携が深められ、区民の意見や事業者の実態を踏まえた規制内容が整えられていきました。条例違反者に対しては、業務改善命令・業務停止命令・事業廃止命令などの処分が下され、その情報は区ホームページ等で公表される制度も運用されています。
違反者公表制度と罰則の仕組み
豊島区は条例第4条第2項に基づいて、住宅宿泊事業法違反者に対する不利益処分を公表する制度を運用しています。公表対象となるのは、住宅宿泊事業法第15条に基づく業務改善命令、同法第16条に基づく業務停止命令等、および条例に基づく勧告に正当な理由なく従わない場合です。現在、令和8年10月2日付で1事業者1施設への業務改善命令、令和8年6月11日付で15事業者23施設への業務停止命令が公表されている実績があります。
公表される情報には届出住宅の所在地、届出番号、届出者名、停止期間または廃止日が含まれるため、事業者にとって社会的な信用を失うリスクが伴います。さらに、無届営業については旅館業法による罰則も適用されます。こうした厳格な執行体制が整えられていることは、民泊事業に関わるすべての方が真剣に受け止めるべき事実です。
令和7年・令和8年の2段階にわたる規制改正の内容

豊島区の民泊規制強化は、令和7年(2025年)12月15日と令和8年(2026年)12月16日の2段階に分けて実施されます。それぞれの施行日に何が変わるのかを正確に把握しておくことが、事業継続のために非常に重要です。以下では、各段階の変更内容を詳しく見ていきます。
令和7年12月15日施行:届出手続きと周知義務の変更
令和7年12月15日の施行では、主に届出時の添付書類と事前周知の方法が変更されます。これまでポスティング(チラシの投函)で対応できていた近隣住民への事前周知が、住民説明会の実施へと格上げされます。届出の14日前までに周辺住民への事前周知と説明会の実施が義務付けられており、より丁寧で双方向のコミュニケーションが求められるようになります。
また、海外在住者や外国法人が民泊事業を行う場合、国内に住所を有する代理人の選任が必須となります。これは、トラブル発生時に迅速な対応ができる窓口を国内に確保するための措置です。地域住民との協力体制の構築と、問題発生時の誠実な対応も義務付けられており、事業者に対して社会的責任を強く求める内容となっています。なお、12月15日以前に申請しても受理が12月16日以降になると規制の影響を受ける可能性があるため、余裕をもった早期申請が強く推奨されています。
令和8年12月16日施行:営業日数と営業区域の大幅制限
令和8年12月16日の施行は、豊島区の民泊規制において最も大きなインパクトをもたらす変更です。年間の営業可能日数が、法律上の上限である180日から120日へと大幅に短縮されます。さらに重要なのは、この120日制限が既存の届出住宅にも適用される点です。すでに民泊を営業しているオーナーも、2026年12月16日以降は同じルールに従わなければなりません。
営業可能期間は以下の長期休暇シーズンに限定されます。
- 春休み:3月15日~4月10日
- 夏休み:7月1日~8月31日
- 冬休み:12月15日~翌1月14日
これらの期間以外は原則として営業ができなくなるため、年間を通じた安定収益を想定していた事業者には大きな打撃となります。また、営業可能区域も大幅に絞り込まれ、住居専用地域や一部の地域では新規開設が全面的に禁止されます。
営業可能区域の詳細:どのエリアで民泊ができるのか
令和8年12月16日以降、豊島区内で民泊を運営できる区域は大幅に限定されます。以下の表に、各用途地域における民泊の可否をまとめました。
| 用途地域・地区 | 新規開設 | 備考 |
|---|---|---|
| 第一種・第二種低層住居専用地域 | 禁止 | 住居専用地域のため全面制限 |
| 第一種・第二種中高層住居専用地域 | 禁止 | 住居専用地域のため全面制限 |
| 田園住居地域 | 禁止 | 住居専用地域のため全面制限 |
| 準工業地域 | 禁止または制限 | 営業も制限される場合あり |
| 文教地区 | 禁止 | 教育環境保護のため制限 |
| 第一種・第二種住居地域、準住居地域 | 制限あり | 営業期間の制限が適用 |
| 商業地域・近隣商業地域 | 条件付き可能 | 120日制限・営業期間限定あり |
このように、豊島区内で実質的に民泊の新規開設が可能なエリアは商業地域など一部に限られることになります。既存事業者も対象となるため、自分の物件がどのエリアに属するかを早急に確認することが必要です。
民泊事業者が今すぐ取るべき対応と実務的な注意点

規制の内容を理解したうえで、次に重要なのは「では具体的に何をすべきか」という実務的な対応です。これから民泊を始めようとする方、すでに営業中のオーナー、それぞれの立場に応じた対応策を整理します。
新規開業を検討している方へ:早期申請の重要性
令和8年12月16日より前に届出が「受理」されることが、現行の規制の枠組みで事業を開始するための鍵となります。ただし注意すべき点は、申請日ではなく「受理日」が基準となることです。現在は申請件数が多く、標識交付まで3か月以上かかる場合があります。12月15日以前に申請を出しても、受理が12月16日以降になれば新規制の適用を受ける可能性があります。
したがって、新規開業を検討しているのであれば、できる限り早く準備を進めることが不可欠です。事前準備として必要な主な手続きは以下の通りです。
- 消防署への相談と安全措置チェックリストの作成
- 分譲マンションの場合は管理規約の確認
- 家主不在型の場合は住宅宿泊管理業者との契約締結
- 届出14日前までに近隣住民への事前説明会の実施
- 国の「民泊制度運営システム」を通じた電子申請の準備
これらの手続きには相応の時間がかかるため、逆算してスケジュールを立てることが重要です。
既存オーナーが確認すべき事項:継続か転換か
すでに民泊を営業している既存オーナーにとって、令和8年12月16日以降の規制は見過ごせない問題です。自分の物件が新規制の対象区域に該当するかどうか、そして120日制限が収益計画に与える影響を早期に見極める必要があります。物件の所在地と用途地域を確認し、商業地域などの営業可能区域であれば条件付きで継続が可能ですが、住居専用地域などに該当する場合は廃業も視野に入れなければなりません。
通年で民泊事業を継続したい場合の現実的な選択肢として、旅館業許可(簡易宿所営業など)への切り替えが挙げられます。旅館業許可を取得すれば、住宅宿泊事業法の制約から外れ、年間を通じた営業が可能となります。ただし、旅館業への転換には設備基準の充足や許可申請手続きなど、それなりのコストと時間がかかります。自分の物件が新規制の対象かどうかの確認も含め、専門家への相談を早めに行うことをお勧めします。
日々の運営で守るべき義務と管理のポイント
民泊事業を適法に運営するためには、届出・申請だけでなく日常的な運営管理においても多くのルールを守る必要があります。まず、宿泊者名簿の管理については、対面による本人確認と鍵の手渡しが原則であり、正確な記録の保持が求められます。苦情・トラブルが発生した場合は30分以内の駆けつけ対応が要件とされており、これは家主不在型の場合は委託した住宅宿泊管理業者が担うことになります。
定期報告の義務も重要です。届出住宅の運営状況については、偶数月15日までに前2か月分の定期報告を郵送またはFAX(03-3981-5452)で提出しなければなりません。廃業の際には、届出日から廃業日を含む報告月までのすべての定期報告が完了していることが条件となります。また、共同住宅では法定標識に加えて郵便受け等に区指定標識の掲示が必要であり、発生した廃棄物は事業系ごみとして適正処理することも義務付けられています。
まとめ
豊島区の民泊規制は、令和7年12月15日と令和8年12月16日の2段階にわたって大幅に強化されます。特に令和8年12月16日以降は、営業日数が年間120日に短縮され、営業可能区域も商業地域など一部に限定されるという非常に厳しい内容となっており、新規参入者も既存オーナーも等しくその影響を受けます。これから民泊を始めたい方は一刻も早く準備と申請を進めること、すでに営業中の方は継続・転換・廃業のいずれが最善かを専門家に相談しながら慎重に判断することが求められます。豊島区の民泊環境は大きな転換期を迎えており、正確な情報収集と早めの行動が事業の成否を左右します。

