はじめに
民泊(みんぱく)とは、個人が自宅の一部を活用して宿泊サービスを提供する事業形態のことです。近年、観光需要の高まりや民泊の新規制度の整備などにより、民泊事業への参入が増えてきています。しかし、民泊を始めるには様々な申請手続きと法令の確認が必要となります。本記事では、民泊の申請に関する重要な点を解説していきます。
民泊の申請の種類
民泊の申請には、大きく分けて以下の3つの方法があります。
旅館業の許可を取得する方法
従来の旅館業法に基づき、地方公共団体に対して旅館業の許可申請を行う方法です。建築基準や設備要件などのチェックが必要となり、手続きが比較的煩雑です。
旅館業の許可を取得すれば、年間を通して民泊事業が可能となりますが、一定の施設基準を満たす必要があります。許可申請には、定款や決算書、施設の図面など様々な書類の提出が求められます。
国家戦略特別区域で認定を受ける方法
規制緩和の観点から設けられた国家戦略特別区域では、旅館業法の適用を一部免除されています。特区で民泊の認定を受ければ、簡素な手続きで民泊事業への参入が可能です。
ただし、認定を受けられる地域が限定されているため、事業を行う地域によっては別の方法を検討する必要があります。特区による認定には、住民説明会の開催や安全対策の確認などの手続きが必要です。
住宅宿泊事業法による届出
2018年6月に施行された住宅宿泊事業法に基づき、年間180日以内の範囲で民泊を行うことができます。都道府県への届出が義務付けられていますが、比較的簡便な手続きで民泊事業を開始できます。
届出には消防法令の適合や周辺住民への事前説明など一定の要件を満たす必要があります。居室数が5を超える場合や不在時は住宅宿泊管理業者への委託が必須となります。
申請手続きの流れ
民泊の申請手続きは地域や申請方法によって異なりますが、おおよその流れは以下のとおりです。
事前の確認と準備
まずは住宅の所在地を管轄する自治体の窓口に相談し、申請の要件や必要書類を確認します。民泊を行う住宅が消防法令に適合しているかの確認や、住民説明会の開催準備なども行います。
届出に必要な書類として、住民票や登記事項証明書、賃貸の場合は賃貸人の承諾書、住宅の図面や写真、消防法令適合通知書などの準備が求められます。分譲マンションの場合は管理規約の確認も重要です。
申請書類の提出
必要書類を揃えたら、都道府県や特別区の窓口に申請書類一式を提出します。原則としてオンラインの民泊制度運営システムから届出を行いますが、書面での提出も可能です。
申請時には、宿泊者の安全確保に関するチェックリストや住宅宿泊管理業者の委託状況などの書類の添付が必要となる場合があります。
審査と許可・届出受理
提出された申請書類に基づき、自治体で審査が行われます。審査を通過すれば旅館業の許可が下りるか、住宅宿泊事業の届出が受理されます。届出が受理されると届出番号の通知と標識の交付を受けます。
許可や届出の受理後は、宿泊者名簿の作成や標識の掲示、報告義務の履行など、事業者としての責務が発生します。
地域別の規制と留意点
民泊の申請に当たっては、事業を行う地域の条例や規制を確認する必要があります。自治体によって、民泊の制限区域や実施期間、手続きなどが異なるためです。
都市部の規制
東京都や大阪府をはじめ、人口が密集する都市部では、防火安全対策や騒音、廃棄物処理といった観点から、比較的厳しい規制が設けられています。分譲マンション内での民泊は特に慎重な対応が求められます。
例えば、東京都の条例では、分譲マンションの管理規約に民泊を認める定めがない場合は届出ができません。また、道路に面した部分の家屋では居室の位置が制限されるなど、細かい規定が設けられています。
地方の規制
地方都市では、学校周辺や住宅専用地域などの指定区域で民泊が制限される傾向にあります。北海道や新潟県、福島県など一部の県では、児童福祉施設や病院周辺での民泊が禁止されています。
一方で、人口減少が進む地方自治体では、観光振興や地域活性化の観点から、民泊に前向きな条例を設けている地域もあります。
観光地やリゾート地域
人気の観光地やリゾート地域では、風紀を乱す違法な民泊への対策が課題となっています。例えば沖縄県では、住宅地以外の地域における民泊の届出を一時的に停止する措置を取るなど、事業者への指導を強化しています。
一方で、民泊事業者の方々にも、適正な届出と法令順守が求められます。特に、騒音や廃棄物の放置、交通渋滞といった生活環境への配慮が重要です。
民泊の申請に必要な手続き
ここまで申請の種類や地域別の規制事項について説明してきました。次に、実際の申請に必要となる主な手続きをご紹介します。
消防法令適合通知書の取得
民泊の届出には、消防法令に適合していることを証明する通知書の添付が必須となります。所管の消防署に図面や設備の内容を提出し、審査を受けて適合通知書の交付を受ける必要があります。
消防法令では、避難経路や消火設備、給排水設備などについて具体的な基準が定められています。民泊に適した安全対策が施されているかどうかが重要なポイントとなります。
関連法令への対応
消防法令以外にも、食品衛生法や温泉法、建築基準法、下水道法、景観条例など、様々な法令を順守する必要があります。食事の提供や温泉施設の利用など、サービス内容によって必要な許可が異なります。
また、自然公園内で民泊を行う場合は自然環境保全法への対応や、自転車の貸し出しを行う場合は保険加入が必要になるなど、様々な準備が求められます。
住民説明会の実施
住宅宿泊事業法では、民泊を始める前に事前に周辺住民へ説明を行うことが義務付けられています。騒音や迷惑行為の防止、プライバシーの確保など、生活環境への配慮について理解を求める必要があります。
説明会の開催状況については報告書を作成し、民泊の届出時に添付する必要があります。分譲マンションの場合は管理組合への説明と同意が別途必要となります。
まとめ
民泊の申請は、地域や申請方法によって多岐にわたる手続きが必要となります。消防法令への適合はもちろん、他の関連法令の順守や周辺住民への配慮なども欠かせません。自治体の窓口に相談し、事前の確認を十分に行うことが大切です。
一方で、近年は法整備が進み、比較的簡便な手続きで民泊に参入できるようにもなってきました。観光需要の増加に伴い、民泊事業への関心は今後も高まると考えられます。法令を理解し適切に対応することで、民泊を安心して始められるはずです。