はじめに
簡易宿所営業とは、宿泊施設を多数人で共用する形態の営業を指します。宿泊客にとっては低コストで宿泊できる選択肢となり、経営者にとってはスペースを有効活用できるメリットがあります。しかし、安全性や衛生面での基準を満たす必要があり、適切な許可を得る手続きが欠かせません。本記事では、簡易宿所営業の概要から、開業に向けた手順、注意点までを詳しく解説していきます。
簡易宿所営業とは
簡易宿所営業は、旅館業法で定められた宿泊施設の一種です。宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とした施設で、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業形態を指します。
簡易宿所の種類
簡易宿所には、以下のような施設が含まれます。
- カプセルホテル
- スポーツ合宿所
- 山小屋
- 民宿
最近では外観の差別化が進み、簡易宿所の定義が曖昧になってきています。しかし、共用の構造や設備を主体とするかどうかが重要な判断材料となります。
簡易宿所の特徴
簡易宿所の主な特徴は以下の通りです。
- 宿泊料が安価
- 階層式寝台や共用スペースを有する
- 短期宿泊向け
- 設備基準が比較的緩和されている
つまり、簡易宿所営業は、限られたスペースに多くの宿泊客を収容できるため、低価格での営業が可能になります。ただし、法令に定められた基準を満たす必要があります。
簡易宿所営業の許可手続き
簡易宿所営業を行うには、旅館業法に基づき保健所長の許可を得る必要があります。開業に向けた主な手続きは以下の通りです。
事前相談
まず、管轄の保健所に事前相談を行い、営業の可否や必要な手続きなどを確認します。この段階で、法令上の制限や注意点を把握できます。
事前相談の際は、以下の資料を用意する必要があります。
- 建物の配置図
- 各階の平面図
- 立面図
- 構造図
許可申請
事前相談の後、本格的に許可申請を行います。申請には以下の書類が必要です。
- 簡易宿所営業許可申請書
- 法人の場合は登記事項証明書
- 施設の構造設備に関する図面
- 申請手数料
申請後、保健所による書類審査と実地検査が行われます。施設が基準に適合していれば、許可が下ります。
開業手続き
許可を得た後は、以下の手続きが必要です。
- 消防法に基づく手続き
- 建築基準法に基づく手続き
- 都市計画法に基づく手続き
- 近隣住民への説明
これらの手続きを適切に行えば、ようやく開業できます。開業後も、定期的な施設の維持管理が求められます。
簡易宿所営業の施設基準
簡易宿所営業を行う施設は、一定の構造設備基準を満たす必要があります。主な基準は以下の通りです。
客室の面積基準
宿泊者数 | 客室の延床面積基準 |
---|---|
10人以上 | 33平方メートル以上 |
10人未満 | 3.3平方メートル × 宿泊者数 |
また、多数人で共用しない個室を設ける場合、その個室の延床面積は総客室面積の2分の1未満とする必要があります。
寝台の構造基準
階層式寝台を設置する場合、上段と下段の間隔は1m以上が求められます。寝台の構造は多様化しているため、詳細は事前に相談する必要があります。
設備基準
以下の設備を適切に設置しなければなりません。
- 換気設備
- 採光設備
- 照明設備
- 防湿設備
- 排水設備
- 洗面設備(5人に1個以上)
- 便所(5人に1個以上)
- 入浴設備(適当な数)
注意事項と制限事項
簡易宿所営業には、様々な注意点と制限事項があります。主なものは以下の通りです。
営業者の資格制限
以下のような場合、営業の許可が下りない可能性があります。
- 成年被後見人または被保佐人
- 破産者で復権を得ていない者
- 過去に旅館業法違反で処分を受けた者(3年の経過を要する)
近隣対策の必要性
簡易宿所は騒音や治安面で影響を与えかねないため、以下の対策が必要となります。
- 近隣住民への事前説明
- 営業時間外の宿泊者受け入れ禁止の掲示
- 営業時間外の宿直体制の確保
用途地域の制限
簡易宿所営業は、以下の地域では新規の営業は原則として認められません。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
物件の所在地を確認し、営業が可能かどうかを事前に把握する必要があります。
まとめ
簡易宿所営業は、スペースを有効活用できる一方で、様々な法令上の規制があります。開業に向けては、事前相談から許可申請、近隣対策まで、手順を踏んだ対応が不可欠です。施設の構造設備基準も厳しく、営業者の資格要件も課されています。検討の際は、関係法令や自治体の条例をしっかりと確認し、専門家に相談するなどして、適切な準備を行う必要があります。