はじめに
近年、民泊市場の拡大に伴い、住宅宿泊管理業への関心が高まっています。住宅宿泊管理業とは、民泊事業者に代わって宿泊施設の管理業務を行う専門的な事業であり、適切な運営を行うためには国土交通大臣への登録が必要となります。この登録制度は、民泊の安全性と品質を確保し、地域住民との良好な関係を維持することを目的としています。
住宅宿泊管理業の申請は複雑な手続きを伴い、様々な要件を満たす必要があります。人的要件、財産的要件、適切な業務体制の構築など、多岐にわたる条件をクリアしなければなりません。本記事では、住宅宿泊管理業の申請について詳しく解説し、これから参入を検討している事業者の皆様に有用な情報を提供いたします。
住宅宿泊管理業の概要
住宅宿泊管理業は、住宅宿泊事業者が家主不在型の民泊を運営する際に、その管理業務を代行する事業です。民泊法(住宅宿泊事業法)により、家主が現地にいない場合は必ず住宅宿泊管理業者に管理を委託することが義務付けられています。これにより、宿泊者の安全確保や近隣住民への配慮が適切に行われることを担保しています。
管理業務の内容は多岐にわたり、宿泊者の受付業務、施設の清掃・メンテナンス、苦情対応、緊急時の対応などが含まれます。また、法令に基づいた適切な運営を行うため、各種書面の交付や記録の保管なども重要な業務となっています。これらの業務を適切に遂行することで、民泊事業の健全な発展に寄与することができます。
申請の必要性と意義
住宅宿泊管理業を営むためには、国土交通大臣への登録申請が法律で義務付けられています。この登録制度は、管理業者の質の向上と業界全体の信頼性確保を目的としており、一定の基準をクリアした事業者のみが登録を受けることができます。登録を受けることで、法的に適正な事業運営が可能となり、顧客からの信頼も得やすくなります。
登録の有効期間は5年間となっており、期間満了前に更新手続きを行う必要があります。更新を怠ると登録が抹消され、業務を継続できなくなるため、適切な期間管理が重要です。また、登録番号は民泊事業者が管理業者を選定する際の重要な判断材料となるため、事業展開において必要不可欠な要素といえます。
業界の現状と将来性
民泊市場は国内外の観光需要の高まりとともに拡大傾向にあり、住宅宿泊管理業界も成長が期待されています。特にインバウンド観光の回復により、都市部を中心に民泊需要が増加しており、専門的な管理サービスへのニーズも高まっています。この傾向は今後も継続すると予想され、管理業者としてのビジネスチャンスは広がっています。
一方で、業界の成熟とともに競争も激化しており、単なる管理業務の代行にとどまらず、付加価値の高いサービスの提供が求められています。デジタル技術を活用した効率的な管理システムの導入や、多言語対応サービス、地域と連携した体験プログラムの提供など、差別化を図る取り組みが重要となっています。
登録要件の詳細

住宅宿泊管理業の登録を受けるためには、法律で定められた厳格な要件を満たす必要があります。これらの要件は、管理業務を適切に遂行できる能力と体制を担保するために設けられており、人的要件、財産的要件、欠格事由の回避という三つの主要な柱で構成されています。各要件を詳しく理解し、適切に準備することが登録成功の鍵となります。
人的要件の詳細
人的要件では、住宅宿泊管理業務を適切に実施できる専門知識と経験を持つ人材の確保が求められます。個人で申請する場合は、申請者自身が要件を満たす必要があり、法人の場合は該当する資格を持つ従業者を各営業所に配置する必要があります。具体的には、宅地建物取引士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士のいずれかの資格を保有していることが条件となります。
これらの資格を保有していない場合でも、住宅の取引や管理に関する実務経験が2年以上ある場合は要件を満たすことができます。また、2025年現在では、国土交通大臣の登録を受けた登録実務講習を修了することでも人的要件をクリアできるようになっています。この講習は自主学習20時間、オンライン講義7時間、オンライン試験1時間で構成され、80%以上の正答率で合格すると修了証明書が発行されます。
財産的要件について
財産的要件は、事業を安定的に継続できる経済的基盤があることを証明するための要件です。法人の場合は資本金が100万円以上であることが基本的な条件となり、個人の場合も相応の財産的基礎を有していることが求められます。また、負債の合計額が資産の合計額を超えていないこと、支払不能に陥っていないことも重要な判断基準となります。
新規設立の法人の場合は、開業貸借対照表の添付が必要となり、財政状況の健全性を客観的に示すことが求められます。既存の法人については、最近の決算書や納税証明書などを提出し、継続的な事業運営能力があることを証明する必要があります。これらの書類は、金融機関や官公署から正式に発行されたもので、申請時点で有効なものを使用する必要があります。
欠格事由の確認
欠格事由とは、住宅宿泊管理業を営むのに適さない事情がある場合を指し、該当する場合は登録を受けることができません。主な欠格事由として、心身の故障により業務を適正に行えない場合、破産手続開始の決定を受けて復権していない場合、過去に国土交通大臣の登録取消処分を受けた場合などがあります。また、一定の犯罪歴がある場合や暴力団関係者である場合も欠格事由に該当します。
法人の場合は、役員についても同様の欠格事由がないかを確認する必要があり、一人でも該当者がいる場合は登録を受けることができません。欠格事由の確認は申請書に添付する誓約書により行われますが、虚偽の申告をした場合は厳しい処分の対象となるため、正確な申告が重要です。申請前に関係者全員について十分な確認を行い、問題がないことを確認してから手続きを進める必要があります。
必要書類と申請手続き

住宅宿泊管理業の申請には、多種多様な書類の準備と適切な手続きが必要です。申請書類は個人と法人で異なる部分があり、それぞれに応じた書類を漏れなく準備する必要があります。また、申請は民泊制度ポータルサイトを通じて電子申請で行うことが基本となっており、システムの利用方法も理解しておく必要があります。
申請書類一覧
申請書類は大きく分けて、基本的な申請書類、資格や経歴を証明する書類、財産状況を示す書類、業務体制を証明する書類に分類されます。基本的な申請書類には、連絡票、登録申請書、略歴書、誓約書などが含まれます。これらの書類はExcelやPDF形式で提供されており、記載例を参考にしながら正確に記入する必要があります。
法人の場合は、定款の写し、登記事項証明書、株主情報、最近の決算書などの提出が必要となります。個人の場合は、国の規則に定められた書類を提出することになり、住民票の写しや所得証明書などが該当します。また、管理業務を的確に遂行するための体制整備を証明する書類として、苦情対応体制や遠隔業務体制の詳細を示す書類、使用する機器の仕様書なども必要となります。
電子申請の流れ
住宅宿泊管理業の申請は、民泊制度ポータルサイトを通じた電子申請が基本となっています。まず、サイトにアカウントを作成し、ログイン後に申請画面から必要事項を入力していきます。法人の場合は、代表者の情報、法人番号、住所、役員情報、営業所情報などを順次入力し、個人の場合は個人情報や営業所情報を入力します。
入力が完了したら、申請書を印刷し、申請先や日付を記入の上、代表者印(個人の場合は個人印)を押印します。その後、必要書類と併せて主たる営業所または事務所の所在地を管轄する地方整備局等に提出します。民泊制度運営システムを利用しない場合は、手数料が若干高くなるため、電子申請の活用が推奨されています。
手数料と納付方法
住宅宿泊管理業の申請には、所定の手数料の納付が必要です。新規申請の場合は登録免許税として9万円を納付する必要があり、これは地方整備局等の所在地を管轄する税務署で手続きを行います。登録免許税は国税であり、現金で納付するか、税務署で収入印紙を購入して納付書に貼付する方法があります。
更新申請の場合は、手数料として19,100円(民泊制度運営システムを利用しない場合は19,700円)の収入印紙を申請書に貼付します。これらの費用は申請時に必ず必要となるため、事前に準備しておく必要があります。また、登録完了希望日の3か月前には申請を行う必要があるため、余裕を持ったスケジュール管理が重要です。
業務体制の整備

住宅宿泊管理業を適切に運営するためには、法令に基づいた業務体制の整備が不可欠です。これには、苦情対応体制の構築、遠隔業務システムの導入、緊急時対応体制の確立など、多岐にわたる要素が含まれます。これらの体制は申請時に詳細を提出する必要があり、登録後も継続的に維持・改善していく必要があります。
苦情対応体制の構築
住宅宿泊管理業において、宿泊者や近隣住民からの苦情に適切に対応することは極めて重要な業務です。苦情対応体制では、24時間365日対応可能な連絡先の設置、苦情内容の記録・管理システム、対応手順の明文化、担当者の研修体制などを整備する必要があります。特に、外国人宿泊者への対応を考慮し、多言語対応体制の構築も重要な要素となります。
効果的な苦情対応体制を構築するためには、想定される苦情のパターンを事前に分析し、それぞれに対する標準的な対応手順を策定することが重要です。また、苦情の内容や対応結果を蓄積・分析し、施設の改善や運営方法の見直しに活用することで、苦情の発生を予防することも可能です。定期的な近隣住民との意見交換会の開催なども、良好な関係維持に効果的です。
遠隔業務システムの導入
家主不在型の民泊では、管理業者が現地に常駐していない場合が多いため、遠隔での業務実施体制が重要となります。これには、遠隔でのチェックイン・チェックアウト手続き、監視カメラシステム、スマートロック、緊急通報システム、清掃・メンテナンススケジュール管理システムなどの導入が含まれます。これらのシステムは、効率的な業務運営と適切なサービス提供を両立するために必要不可欠です。
遠隔業務システムの選定においては、操作の簡便性、システムの安定性、セキュリティ対策、コスト効率性を総合的に評価することが重要です。また、宿泊者のプライバシー保護にも十分配慮し、監視カメラの設置場所や録画データの管理方法について、法的要件を満たした運用体制を構築する必要があります。定期的なシステムメンテナンスと更新も忘れずに実施し、常に最適な状態を維持することが求められます。
緊急時対応体制
宿泊施設では、火災、地震、急病、設備故障など、様々な緊急事態が発生する可能性があります。これらの事態に迅速かつ適切に対応するため、緊急時対応マニュアルの策定、緊急連絡網の構築、関係機関との連携体制の確立が必要です。特に、消防署、警察署、医療機関、設備業者などとの連絡先を整理し、24時間対応可能な体制を構築することが重要です。
緊急時対応体制の実効性を確保するためには、定期的な訓練の実施と対応手順の見直しが欠かせません。また、宿泊者に対する緊急時の避難経路の案内や、非常用設備の使用方法の説明も重要な業務となります。多言語での緊急時対応マニュアルの準備や、外国人宿泊者への適切な情報提供体制も整備しておく必要があります。
法令遵守と業務運営

住宅宿泊管理業の運営においては、住宅宿泊事業法をはじめとする関連法令の遵守が極めて重要です。法令違反は登録の取消しや業務停止命令などの重い処分の対象となるため、常に最新の法規制を把握し、適切な業務運営を行う必要があります。また、業務の透明性と品質向上のため、様々な義務が課されており、これらを確実に履行することが求められます。
広告・勧誘に関する規制
住宅宿泊管理業者は、広告や勧誘活動において厳格な規制に従う必要があります。誇大広告の禁止は基本的な義務であり、管理サービスの内容や料金について、事実と異なる表示や誤解を招く表現を使用することは禁止されています。また、不当な勧誘行為も禁止されており、強引な契約の締結や虚偽の説明による契約の誘導などは厳しく処罰されます。
適切な広告・勧誘活動を行うためには、広告内容の事前チェック体制の構築、従業者への教育研修の実施、顧客からの苦情や問い合わせへの適切な対応などが重要です。特に、インターネットを活用した広告では、表示内容の継続的な監視と更新が必要であり、古い情報や不正確な情報が掲載されないよう注意深く管理する必要があります。
契約書面の交付義務
住宅宿泊管理業者は、管理受託契約の締結前後において、委託者に対して法定事項を記載した書面を交付することが義務付けられています。契約締結前には、管理業務の内容、料金、契約期間、解約条件などの重要事項を記載した書面を交付し、十分な説明を行う必要があります。また、契約締結後には、契約内容を確認できる書面を遅滞なく交付しなければなりません。
これらの書面は、単に法的義務を果たすだけでなく、委託者との信頼関係構築と後々のトラブル防止のためにも重要な役割を果たします。書面の内容は分かりやすく記載し、専門用語については十分な説明を加えるなど、委託者の理解を促進する工夫が必要です。また、書面の交付記録を適切に保管し、必要に応じて確認できるよう管理することも重要です。
帳簿管理と報告義務
住宅宿泊管理業者には、業務に関する帳簿の作成・保管義務があります。帳簿には、管理受託契約の内容、宿泊者の状況、苦情対応の記録、業務実施状況などを詳細に記録する必要があります。これらの記録は、業務の適正性を証明する重要な資料となるため、正確かつ継続的な記録が求められます。また、帳簿は一定期間保管することが義務付けられており、行政からの求めに応じて提出できるよう適切に管理する必要があります。
さらに、国土交通大臣に対する定期報告義務もあり、業務実施状況や財務状況などを定期的に報告する必要があります。これらの報告は、業界全体の動向把握と制度改善のための重要なデータとして活用されるため、正確な情報提供が求められます。報告書の作成には専門的な知識が必要な場合もあるため、必要に応じて専門家のサポートを受けることも検討すべきです。
まとめ
住宅宿泊管理業の申請は、複雑な手続きと厳格な要件をクリアする必要がある重要なプロセスです。人的要件、財産的要件、欠格事由の回避という基本的な登録要件に加え、適切な業務体制の構築と継続的な法令遵守が求められます。申請にあたっては、必要書類の適切な準備、電子申請システムの活用、所定の手数料の納付などを確実に行う必要があります。
登録後の業務運営においては、苦情対応体制、遠隔業務システム、緊急時対応体制の整備が不可欠であり、これらの体制を継続的に改善していくことが重要です。また、広告・勧誘規制の遵守、契約書面の適切な交付、帳簿管理と報告義務の履行など、法令に基づいた適正な業務運営を心がける必要があります。民泊市場の拡大とともに、住宅宿泊管理業界の成長が期待される中、適切な準備と継続的な努力により、持続可能なビジネスを構築することが可能です。

