はじめに
バー経営を始めるには、単に美味しいお酒を提供するだけでは不十分です。適切な許可や資格の取得、法的要件の遵守が必要不可欠となります。バー経営には複数の許可申請が必要で、これらを怠ると営業停止や罰則を受ける可能性があります。
バー経営における許可の重要性
バー経営において許可の取得は法的な義務であり、無許可での営業は2年以下の懲役や200万円以下の罰金という重い罰則が科せられます。特に深夜営業や遊興を提供するバーでは、より厳格な許可要件が求められるため、事前の準備が重要です。
許可の取得には時間がかかることが多く、申請から許可証の交付まで約2-3週間程度を要します。そのため、開業予定日に間に合うよう、十分な余裕を持って手続きを進める必要があります。
バー経営の魅力と課題
バー経営は収益性が高く、軌道に乗れば年収1000万円以上も狙える魅力的な事業です。しかし、固定客の割合が高い業態であるため、継続的な顧客関係の構築が成功の鍵となります。また、深夜営業が多いため、特別な許可や届出が必要になることも特徴の一つです。
バー経営には初期費用として500万円から1000万円程度が必要で、月々の運転費用も50万円から80万円程度かかります。これらの資金調達と併せて、適切な許可取得が経営成功の基盤となります。
許可取得の流れと準備
バー開業に向けた許可取得は、要件確認から始まり、各種申請手続き、設備検査、許可証の受け取りという段階を踏みます。この過程では、関係各所との綿密な相談と調整が必要となり、計画的なスケジュール管理が求められます。
許可取得の準備段階では、物件の選定から内装工事の計画まで、許可要件を満たす設備や構造を考慮する必要があります。特に用途地域の制限や客室の面積規制など、法的な要件を事前に確認し、適切な物件選びを行うことが重要です。
基本的な許可と資格について

バー経営には基本的な許可と資格の取得が必要不可欠です。これらは営業の根幹となるもので、適切に取得し維持することで、安定した経営基盤を築くことができます。ここでは、すべてのバー経営者が取得すべき基本的な許可と資格について詳しく解説します。
食品衛生責任者資格の取得
食品衛生責任者は、バー経営において最も重要な資格の一つです。この資格は食品衛生法により義務付けられており、飲食店で提供される飲食物の衛生管理を担当する専門的な資格です。資格取得には食品衛生責任者講習の受講が必要で、食品衛生に関する基礎知識を証明するものとなります。
この資格を持つ責任者は、店舗における衛生管理の計画策定や実施、スタッフへの衛生指導などを担当します。バーでは特に氷や生果物の取り扱い、グラスの洗浄方法など、アルコール提供に特化した衛生管理が求められるため、この資格の重要性は非常に高いといえます。
防火管理者資格と防火対策
防火管理者資格は、火災予防や避難誘導などの防火管理業務を行うために必要な資格です。バーは夜間営業が多く、アルコールを扱う業態であるため、火災リスクが高い業種として位置づけられています。そのため、適切な防火管理体制の構築が法的に義務付けられています。
防火管理者は、防火管理計画の作成や消防設備の点検、避難訓練の実施などを担当します。また、店舗の収容人員や床面積に応じて、甲種または乙種の防火管理者資格を取得する必要があり、規模に適した資格選択が重要です。
飲食店営業許可の申請手続き
飲食店営業許可は、バー経営の基盤となる最も重要な許可です。保健所への申請が必要で、営業許可申請書、設備の大要・配置図、食品衛生責任者資格証明書などの書類提出が求められます。申請から許可証交付まで約2-3週間かかるため、開店日に間に合うよう早めの準備が必要です。
申請の流れは、まず要件確認から始まり、保健所への事前相談、申請手続き、設備検査、許可証の受け取りという段階を踏みます。特に設備検査では、厨房設備や手洗い設備、冷蔵・冷凍設備などが基準を満たしているかを厳格にチェックされるため、設備投資の段階から基準を意識した準備が重要です。
個人事業開業届と税務手続き
バー経営を個人事業として開始する場合は、税務署への個人事業開業届の提出が必要です。この届出は開業から1ヶ月以内に提出することが義務付けられており、事業の開始を公的に届け出る重要な手続きです。開業届と併せて、青色申告承認申請書も提出することで、税制上の優遇措置を受けることができます。
税務手続きでは、消費税の課税事業者届出書や給与支払事務所等の開設届出書など、事業規模や雇用予定に応じた追加の届出が必要になる場合があります。これらの手続きを適切に行うことで、後々の税務処理がスムーズになり、経営の安定性向上に寄与します。
深夜営業に関する許可と届出

深夜営業を行うバーには、通常の飲食店営業許可に加えて、特別な許可や届出が必要となります。深夜営業は午後11時から翌朝6時までの時間帯を指し、この時間帯にアルコールを提供したり、遊興サービスを提供したりする場合は、厳格な法的要件を満たす必要があります。
深夜酒類提供飲食店営業開始届出
深夜にアルコールを提供するバーは、警察への深夜酒類提供飲食店営業開始届出が必要です。この届出は、深夜営業を開始する前に管轄の警察署に提出する必要があり、営業形態や店舗の構造について詳細な情報提供が求められます。届出を怠った場合は営業停止処分を受ける可能性があります。
この届出では、用途地域の制限も重要な要素となります。住居専用地域などでは深夜営業が禁止されている場合があり、事前の確認が不可欠です。また、近隣住民への配慮も求められるため、騒音対策や営業時間の設定についても慎重な検討が必要です。
客室の面積規制と構造要件
深夜営業を行うバーでは、客室の面積や構造に関して厳格な規制があります。客室が2室以上ある場合は、1室の面積が9.5平方メートル以上必要とされており、この基準を満たさない場合は許可を取得することができません。また、客室内の見通しを妨げる設備の高さにも制限があり、1メートル以上のものは認められていません。
これらの構造要件は、風俗営業の適正化や犯罪防止の観点から設けられており、店舗設計の段階から十分に考慮する必要があります。内装工事を行う際は、これらの法的要件を満たす設計を心がけ、必要に応じて警察や建築士との事前相談を行うことが重要です。
用途地域による営業制限
バーの深夜営業は、都市計画法で定められた用途地域によって制限を受けます。第一種住居地域や第二種住居地域、準住居地域などでは、深夜営業が禁止または制限されている場合があり、物件選定の段階から用途地域の確認が必要です。商業地域や近隣商業地域では比較的制限が緩やかですが、それでも一定の条件を満たす必要があります。
用途地域の制限は自治体によって異なる場合があり、条例による追加の制限が設けられていることもあります。そのため、物件を決定する前に、必ず管轄の役所や警察署で用途地域と営業制限について確認を行い、計画している営業形態が可能かどうかを事前に調査することが重要です。
深夜営業における注意事項
深夜営業を行う際は、近隣住民への配慮が特に重要となります。騒音対策として、防音設備の設置や営業時間の調整、客の入退店時の声かけなどの対策が求められます。また、深夜営業では酔客への対応も重要で、適切な接客マニュアルの整備やスタッフ教育が必要です。
深夜営業では、定期的な警察の立入検査が行われる可能性があります。その際に営業許可書や届出書の提示が求められるため、常に書類を整備し、すぐに提示できる体制を整えておく必要があります。また、営業状況の記録も重要で、客数や営業時間などの記録を適切に保管することが求められます。
特定遊興飲食店営業許可について

特定遊興飲食店営業許可は、深夜に客に歌やダンス、ショーなどの遊興サービスを提供するバーに必要な許可です。この許可がないと、深夜に遊興サービスを提供することは法的に禁止されており、違反した場合は2年以下の懲役や200万円以下の罰金という重い罰則が科せられます。
特定遊興飲食店営業許可の対象業態
特定遊興飲食店営業許可が必要となるバーの業態は多岐にわたります。生演奏を行うライブバー、ダンスショーを提供するバー、カラオケ設備を備えたバーなどが代表的な例です。また、客が歌ったり踊ったりできる環境を提供するバーも、この許可の対象となります。
ただし、法改正により一部の業態では許可が不要になっているケースもあります。例えば、ダーツバーなど単純なゲーム設備のみを提供する業態では、特定遊興飲食店営業許可が不要とされる場合があります。そのため、最新の法令情報を確認し、自店の業態が許可対象かどうかを正確に判断することが重要です。
申請手続きと必要書類
特定遊興飲食店営業許可の申請は、管轄の警察署に許可申請書を提出することから始まります。申請手数料として24,000円が必要で、この他にも様々な書類の提出が求められます。申請書類には、営業所の構造や設備に関する詳細な図面、管理者の履歴書、欠格事由に該当しないことの誓約書などが含まれます。
申請手続きでは、人的要件、場所的要件、構造・設備的要件のすべてを満たす必要があります。これらの要件は非常に詳細で専門的な内容が多いため、申請前に警察署の担当部署と十分な事前相談を行うことが重要です。また、申請から許可までには相当の時間がかかるため、開業予定日から逆算した綿密なスケジュール管理が必要です。
構造・設備的要件の詳細
特定遊興飲食店営業許可では、店舗の構造や設備について厳格な要件が定められています。客室の面積や形状、照明の明るさ、音響設備の配置など、詳細な基準をクリアする必要があります。特に客室内の見通しを確保するための構造要件や、適切な照明設備の設置は重要なポイントです。
これらの要件は風営法に基づいて定められており、地域の特性や周辺環境への配慮も含まれています。そのため、設計段階から法的要件を十分に考慮し、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることが重要です。また、既存の建物を改装する場合は、構造的な制約もあるため、事前の調査と計画が特に重要になります。
運営上の注意点と管理体制
特定遊興飲食店営業許可を取得した後も、適切な運営管理が求められます。営業時間の遵守、客の管理、近隣への配慮など、様々な運営上の義務があります。また、定期的な報告書の提出や記録の保管も義務付けられており、これらを怠ると許可の取り消しや営業停止処分を受ける可能性があります。
管理体制では、適切な管理者の配置と教育が重要です。管理者は営業に関する法令知識を有し、適切な接客指導やトラブル対応ができる能力が求められます。また、スタッフに対する定期的な教育研修を実施し、法令遵守の意識を徹底することも重要な管理業務の一つです。
風俗営業許可の種類と要件

バーの営業形態によっては、風俗営業許可が必要となる場合があります。風俗営業は1号から5号まで分類されており、それぞれ異なる営業内容と許可要件が定められています。バー経営においては主に2号、3号、5号許可が関係し、接待の有無や遊技設備の設置によって必要な許可が決まります。
風俗営業2号許可(接待バー)
風俗営業2号許可は、客に接待を行うバーに必要な許可です。接待とは、客に対して談笑や歌唱、ダンスなどのサービスを提供し、客をもてなすことを指します。高級クラブやスナック、キャバクラなどがこの許可の対象となり、ホステスやママが客に接客サービスを提供する業態が該当します。
この許可を取得するためには、厳格な人的要件と場所的要件を満たす必要があります。営業所は住居専用地域には設置できず、学校や病院などの保護対象施設からの距離制限もあります。また、管理者には一定の資格要件があり、過去の経歴や素行についても審査が行われます。
風俗営業3号許可(低照度バー・個室バー)
風俗営業3号許可は、低照度の環境で営業するバーや個室を備えたバーに必要な許可です。客室の照度が10ルクス以下の場合や、他の客から見通しのきかない個室を設置している場合がこの許可の対象となります。アダルトな雰囲気を演出するバーや、プライベート感を重視した高級バーなどがこの分類に該当します。
この許可では、客室の構造や照明設備について詳細な規制があります。個室の面積や構造、照明の明るさなど、具体的な数値基準が設けられており、これらを満たさない場合は許可を取得することができません。また、営業時間についても制限があり、深夜営業は基本的に禁止されています。
風俗営業5号許可(ゲーム設備バー)
風俗営業5号許可は、射幸心をそそるおそれのある遊技設備を備えて客に遊技をさせるバーに必要な許可です。パチンコ台やスロットマシン、麻雀台などのギャンブル要素を含む遊技設備を設置する場合がこの許可の対象となります。ただし、この許可では接待は禁止されており、遊技の提供のみが許可されます。
この許可を取得するためには、遊技設備の種類や配置、客席の構造などについて厳格な基準を満たす必要があります。また、遊技に関する表示や説明、景品の提供方法などについても詳細な規制があり、これらを遵守した運営が求められます。
許可要件の共通事項
風俗営業許可には、許可の種類に関わらず共通する要件があります。人的要件として、申請者や管理者が欠格事由に該当しないこと、一定の資格や経験を有することが求められます。場所的要件では、保護対象施設からの距離制限や用途地域の制限があり、適切な立地選択が必要です。
構造・設備的要件では、客室の面積や構造、照明設備、音響設備などについて詳細な基準が定められています。これらの要件は非常に複雑で専門的な内容が多いため、申請前に十分な調査と準備が必要です。また、許可取得後も定期的な更新手続きが必要で、継続的な法令遵守が求められます。
開業準備と手続きの流れ

バー開業の成功には、計画的な準備と適切な手続きの流れが重要です。許可取得から実際の開業まで、多くのステップを踏む必要があり、それぞれの段階で適切な準備と調整が求められます。ここでは、開業準備の全体的な流れと、各段階で注意すべきポイントについて詳しく解説します。
物件選定と立地調査
バー開業の第一歩は、適切な物件の選定です。立地は営業の成否を左右する重要な要素であり、用途地域や周辺環境、アクセスの良さなど、多角的な検討が必要です。特に用途地域については、計画している営業形態が可能かどうかを事前に確認する必要があり、市場調査と合わせて慎重な判断が求められます。
物件選定では、許可取得に必要な構造要件を満たせるかどうかも重要な判断基準となります。客室の面積や天井高、電気設備の容量など、後の改装工事で対応できる範囲を見極める必要があります。また、賃貸借契約においては、営業許可の取得を条件とする特約を盛り込むなど、リスクを回避する工夫も重要です。
資格取得のスケジューリング
バー開業に必要な資格の取得は、開業準備の早い段階で行う必要があります。食品衛生責任者と防火管理者の資格は、講習の受講が必要で、受講日程が限られているため、早めの申し込みが重要です。これらの資格は許可申請の前提条件となるため、スケジュールの遅れが開業時期に影響する可能性があります。
資格取得のスケジューリングでは、講習の開催頻度や会場の確認も重要です。都市部では比較的頻繁に開催されていますが、地方では月に数回程度の開催となる場合もあります。また、講習内容の事前学習や、資格取得後の証明書発行にも時間がかかるため、余裕を持ったスケジュール設定が必要です。
内装工事と設備準備
内装工事は、許可要件を満たしながらコンセプトを実現する重要な工程です。工事業者の選定では、風俗営業許可や食品衛生許可の要件に詳しい業者を選ぶことが重要で、設計段階から法的要件を考慮した計画が必要です。また、工事期間中も保健所や警察との調整が必要になる場合があります。
設備準備では、厨房機器や冷蔵設備、音響設備など、営業に必要な設備の調達と設置を行います。これらの設備は許可要件を満たすスペックである必要があり、設置後の検査に備えた準備が重要です。また、什器や備品の調達、仕入先の選定なども並行して進める必要があります。
各種申請手続きの実施
各種申請手続きは、開業準備の中核となる重要な工程です。申請の順序やタイミングを間違えると、開業時期が大幅に遅れる可能性があるため、綿密なスケジュール管理が必要です。飲食店営業許可、深夜営業届出、特定遊興飲食店営業許可など、複数の申請を並行して進める場合は、それぞれの要件や審査期間を考慮した計画が重要です。
| 申請種類 | 申請先 | 審査期間 | 手数料 |
|---|---|---|---|
| 飲食店営業許可 | 保健所 | 2-3週間 | 16,000円程度 |
| 深夜営業届出 | 警察署 | 2週間程度 | 無料 |
| 特定遊興飲食店営業許可 | 警察署 | 2ヶ月程度 | 24,000円 |
| 防火管理者選任届 | 消防署 | 即日 | 無料 |
開業前の最終準備
開業前の最終準備では、スタッフの募集と教育、販促活動の準備、プレオープンの実施などが重要な要素となります。スタッフには法令遵守の重要性や接客マニュアルの教育を行い、適切なサービス提供ができる体制を整える必要があります。また、開業後半年分の運転資金の確保も重要で、資金繰りの計画も最終確認が必要です。
プレオープンは、実際の営業を開始する前に、設備や手順の最終確認を行う重要な機会です。この段階で発見された問題点を修正し、スムーズな開業を実現することができます。また、近隣住民への挨拶や関係者への案内なども、良好な関係構築のために重要な準備の一つです。
まとめ
バー経営における許可取得は、単なる法的手続きではなく、安定した経営基盤を築くための重要な投資です。食品衛生責任者や防火管理者などの基本的な資格から、深夜営業や遊興サービス提供に必要な特別な許可まで、それぞれが営業の根幹を支える重要な要素となっています。
許可取得の過程では、多くの時間と費用が必要となりますが、これらを怠ることで生じるリスクは計り知れません。営業停止処分や罰金などの法的制裁だけでなく、顧客の信頼失墜や事業継続の危機につながる可能性があります。そのため、開業準備の段階から十分な余裕を持ったスケジューリングと、専門家との連携による確実な手続き実施が重要です。
バー経営は魅力的で収益性の高い事業ですが、その成功には適切な許可取得と法令遵守が不可欠です。計画的な準備と継続的な管理により、安定した経営基盤を築き、長期的な事業発展を実現することができるでしょう。許可取得は開業のスタート地点であり、その後の継続的な更新と管理が、持続可能なバー経営の鍵となります。

