はじめに
民泊は宿泊施設不足に対応し、家主の副収入源にもなる魅力的なビジネスモデルです。しかし、適切な許可や届出を行わずに営業を行うと違法となり、罰則の対象となる可能性があります。本記事では、民泊の許可と届出に関する重要な情報をまとめました。民泊を始める際の手続きや注意点を理解し、適切な方法で事業を運営することが大切です。
民泊の概要と種類
民泊には、旅館業法に基づく許可を得る方法と、2018年に施行された住宅宿泊事業法に基づく届出をする方法の2種類があります。
旅館業法による許可
旅館業法に基づく営業許可を得れば、民泊として住宅を活用した宿泊サービスを年間を通して提供できます。ただし、建築基準法や消防法、自治体の条例などを満たす必要があり、申請前に各所轄官庁と相談が不可欠です。
マンションの場合は管理規約の確認が重要で、一棟丸ごと民泊施設とする場合は容積率の緩和が受けられる可能性もあります。許可を得るには、用途適正、防火安全対策、排水対策、景観配慮など、様々な基準をクリアする必要があります。
住宅宿泊事業法による届出
2018年に施行された住宅宿泊事業法により、年間180日以内の期間に限り、住宅で宿泊サービスを提供できるようになりました。事前に県への届出が必要ですが、旅館業法に比べると手続きが簡便です。
ただし、届出には消防法令適合や設備基準、周辺住民への周知など、様々な要件を満たす必要があります。また、家主不在型の場合は管理業者への委託が義務付けられています。
旅館業法による許可の手続き
旅館業法に基づく民泊の許可を得るには、以下の手順が必要です。
建築基準法の確認
旅館業を営むには、建物が建築基準法に適合している必要があります。用途制限や構造基準、防火区画など、各種基準を満たしているかを建築指導課で確認する必要があります。
マンションの場合は、管理規約で民泊が認められているかを確認し、一棟丸ごと民泊施設とする場合は容積率の緩和が受けられるかも確認が必要です。
消防法令への適合
民泊施設は消防法令に適合した防火安全対策を講じる必要があります。避難経路の確保、消火設備の設置、内装制限などの基準を満たす必要があり、消防署の査察を受ける必要があります。
設備例 | 基準 |
---|---|
避難階段 | 2階以上に客室がある場合は必須 |
消火器 | 1階に3本以上、2階以上に1本以上 |
自動火災報知設備 | 延べ面積150㎡以上の場合は必須 |
許可申請
建築基準法と消防法令への適合が確認できれば、所轄の保健所に旅館業の許可申請を行います。営業計画書、施設の構造設備概要書、管理者の履歴書などの書類を添付する必要があります。
審査を経て許可が下りれば、民泊としての営業が可能になります。ただし、飲食サービスを提供する場合は食品衛生法に基づく別の許可が必要です。
住宅宿泊事業法による届出の手続き
年間180日以内の期間に限り民泊を営む場合は、住宅宿泊事業法に基づく届出を行う必要があります。
届出住宅の要件
届出の対象となる住宅は、以下の3種類です。
- 現に人の生活の本拠として使用されている家屋
- 入居者の募集が行われている家屋
- 所有者、賃借人、転借人の居住用の家屋
また、台所、浴室、便所、洗面設備の4つの設備が備わっている必要があります。公衆浴場の利用は認められません。
消防法令適合の確認
住宅宿泊事業法に基づく届出を行う場合も、消防法令に適合していることが必須です。消防署に申請し、「消防法令適合通知書」の交付を受ける必要があります。
消防法令の基準は旅館業法と概ね同様ですが、小規模な住宅では一部緩和された基準が適用される場合もあります。
届出手続き
消防法令適合通知書が交付されれば、次は県への届出手続きに移ります。原則としてオンラインの「民泊制度運営システム」から届出を行いますが、郵送や持参での届出も可能です。
届出時には、以下の書類を添付する必要があります。
- 誓約書
- 賃貸人の承諾書(賃貸物件の場合)
- 管理規約の写し(分譲マンションの場合)
- 消防法令適合通知書の写し
- 周辺地図
届出が受理されると、届出番号と標識が交付されます。標識は届出住宅の見やすい場所に掲示する必要があります。
民泊事業者の義務と注意点
民泊事業を適切に運営するためには、様々な義務や注意点があります。
宿泊者名簿の管理
宿泊者の氏名、住所、職業、宿泊日を記載した宿泊者名簿を3年間保存する義務があります。外国人宿泊者の場合は、国籍と旅券番号も記載が必要です。
大規模なイベント開催時などには、警察からの要請で名簿の提出を求められる可能性もあります。適切な名簿管理が重要です。
利便性と衛生の確保
外国人宿泊者の利便性を高めるため、災害時の連絡先や避難経路を外国語で掲示する必要があります。また、宿泊者の衛生を守るため、浴槽やシャワーヘッドの適切な清掃が求められます。
さらに、レジオネラ症の予防対策としてエアコンの加湿器は事前に所定の手順で洗浄が必要です。
騒音やごみ対策
周辺の生活環境に配慮し、宿泊者に対して騒音防止の注意喚起やごみの適切な処理方法を説明することが求められます。苦情対応の体制も整備する必要があります。
マンションで民泊を行う場合は、事前に管理組合の了解を得ることが不可欠です。管理規約で民泊を認めていないケースもあります。
食事の提供
宿泊者に食事を提供する場合は、食品衛生法に基づく飲食店営業許可が別途必要になります。また、調理設備や給排水設備の基準も確認が必要です。
まとめ
民泊は法令を遵守し、適切な手続きを経ることが何より重要です。旅館業法による許可を得るか、住宅宿泊事業法に基づく届出を行うかによって要件は異なりますが、いずれの場合も消防法令への適合が不可欠です。
手続きを行う上で、建物の構造基準、設備基準、地域の条例などを確認する必要があります。マンションでの民泊は管理規約との兼ね合いにも注意が必要です。届出後も宿泊者名簿の管理や衛生対策、騒音対策など、適切な運営が求められます。
民泊は新しいビジネスモデルですが、法令遵守とルール作りがこれからの課題です。行政の規制や手続きを理解し、適正な運営を行うことが不可欠です。