はじめに
近年、民泊サービスの需要が高まっています。旅行者にとっては手頃な価格で快適な宿泊体験ができ、住宅オーナーにとっては新たな収入源を得られるため、双方にメリットがあるからです。しかし、民泊ビジネスを始める際には、旅館業法と民泊新法の違いを理解しておく必要があります。本記事では、両者の違いについて詳しく解説していきます。
法律の概要
民泊ビジネスに関連する主な法律には、旅館業法と民泊新法(住宅宿泊事業法)の2つがあります。それぞれの法律の概要は以下の通りです。
旅館業法
旅館業法は、旅館やホテル、簡易宿所など、宿泊施設の営業に関する基準を定めた法律です。この法律に基づき、各施設は消防設備の設置や衛生管理、安全対策などの義務が課せられています。旅館業法の対象となる施設は、許可を受けなければ営業できません。
許可申請には、建物の構造や設備、運営体制など、様々な基準を満たす必要があります。そのため、旅館業法の許可は取得が難しく、手続きも複雑です。一方で、許可を得れば年中無休で営業が可能となり、安全性と信頼性の高いサービスが提供できます。
住宅宿泊事業法(民泊新法)
2018年6月に施行された民泊新法は、一般住宅を活用した宿泊サービスを合法化する法律です。民泊事業者は、届出または登録を行えば、年間180日までの営業が可能になります。住居専用地域でも開業でき、旅館業法ほど厳しい規制はありません。
一方で、宿泊日数に制限があり、消防設備の設置義務も旅館業法ほど厳しくありません。つまり、民泊は参入障壁が低い半面、安全性などの面で旅館業法を下回ります。営業形態や目的に応じて、それぞれのメリット・デメリットを比較する必要があります。
主な違い
民泊と旅館業法には、さまざまな違いがあります。以下では主な違いについて詳しく解説します。
営業日数の制限
最も大きな違いは、営業日数の制限です。旅館業法には営業日数の制限がありませんが、民泊新法では年間180日以内に制限されています。つまり、旅館業法の施設であれば年中無休で営業することが可能ですが、民泊では通年営業はできません。
ただし、この違いは民泊事業者にとって必ずしも不利とは限りません。長期滞在向けではなく、短期の宿泊需要をターゲットにする場合は、民泊新法のルールで十分かもしれません。また、この違いにより、民泊は旅館業法に比べて参入障壁が低くなっているのも事実です。
立地規制
立地規制にも大きな違いがあります。民泊新法では、原則として全ての住居専用地域での営業が可能です。一方、旅館業法における宿泊施設の立地には、用途地域による制限があります。特に旅館やホテルについては、商業地域や工業地域でなければ開業できない場合が多くあります。
住宅地での開業は、民泊事業の大きな魅力の一つです。地域の雰囲気を味わえるうえ、交通の便も良いなどのメリットがあります。ただし、宿泊者の出入りによる近隣トラブルが生じるリスクもあるため、注意が必要です。
手続きの違い
民泊と旅館業法では、事業開始の手続きも異なります。旅館業法の施設を開業する際は、許可申請が必要です。申請には、建物の構造や消防設備の詳細、従業員の雇用計画など、様々な書類の提出が求められます。審査は非常に厳しく、個人事業主では対応が難しい場合もあります。
一方、民泊新法の届出や登録は、旅館業法の許可申請に比べてはるかに簡単です。特に個人が住居の一部を民泊として提供する「家主居住型」であれば、市区町村への届出のみで開業できます。これにより、民泊参入の障壁が大幅に下がっています。
消防設備などの規制
民泊と旅館業法では、消防設備や避難経路の確保など、安全対策面での規制にも違いがあります。旅館業法の施設では、延べ面積に応じて消火設備や非常用の照明、避難階段の設置が義務付けられています。一方、民泊新法における住宅宿泊事業所では、自動火災報知設備と住宅用消火器の設置が最低限の要件とされています。
このように、旅館業法のほうが消防法令に基づく安全基準が厳しくなっています。宿泊者の安全性を最優先するという観点からは、旅館業法施設のほうが高い水準を満たしていると言えるでしょう。
法的選択のポイント
民泊と旅館業法のどちらを選択するかは、事業計画や地域の条件、目的などによって異なります。以下のような点を確認し、適切な法的枠組みを検討する必要があります。
目的や用途
民泊と旅館業法の適用範囲が異なるため、事業の目的や用途を明確にすることが重要です。短期滞在向けの小規模な宿泊サービスを提供したい場合は民泊新法、長期滞在や大規模な施設運営を目指すのであれば旅館業法を選択すると分かりやすいでしょう。
用途に関しては、民泊は住宅を活用した宿泊サービスを想定しています。施設としての建物を用意することも可能ですが、本来の住宅以外の用途で民泊を行うと、旅館業法の対象になる可能性があります。
立地環境
事業を行う地域の立地環境によっても、法的枠組みの選択が変わってきます。住宅地での開業を考えている場合は民泊新法のほうが適していますし、商業地域や工業地域での大規模施設であれば、旅館業法に基づく事業のほうが現実的でしょう。
立地に加え、建物自体の構造や規模、消防設備の状況なども影響してきます。十分な安全対策が取れない建物であれば、旅館業法の基準を満たすのは難しいかもしれません。
法的リスクとコスト
最後に、法的リスクとコストの観点からも検討が必要です。旅館業法の施設には様々な義務が課せられているため、違反した場合の罰則は重くなります。一方、民泊新法に基づく事業であれば、リスクは相対的に低くなります。
コストの面では、民泊のほうがスタートアップ費用が抑えられます。旅館業法の許可申請には高額な手数料がかかり、設備投資なども必要となるためです。事業規模に合わせてコスト面のメリット・デメリットを比較しましょう。
まとめ
民泊ビジネスと旅館業では、法的枠組みが全く異なります。事業を始める際は、それぞれの法律の特徴を十分理解したうえで、適切な選択を行う必要があります。
民泊新法は参入障壁が低く、住宅地での開業が可能です。一方で、営業日数や安全対策の面で制限があります。旅館業法は手続きが煩雑ですが、安全性が高く、通年営業が可能です。立地規制なども厳しくなります。
自身の事業計画に合わせて、メリット・デメリットを比較検討し、民泊と旅館業法のどちらが適切かを判断しましょう。事業が軌道に乗れば大きな収益が期待できますが、法令違反のリスクにも注意が必要です。宿泊ビジネスを成功させるためには、関連法規の理解が欠かせません。