はじめに
旅館業を営もうとする際、営業許可を取得することは必須の要件となります。旅館業法は、宿泊施設の健全な発展と利用者サービスの向上を目的として制定された法律で、旅館業の定義、営業の種類、施設基準などを規定しています。本記事では、旅館業の営業許可制度について詳しく解説していきます。
旅館業の定義と種類
まずは旅館業の定義と種類について確認しましょう。
旅館業の定義
旅館業法では、「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」を旅館業と定義しています。つまり、宿泊料を徴収し、施設で人を宿泊させる営業活動が旅館業に該当します。民泊サービスを行う場合も、この定義に当てはまるため、旅館業の許可が必要となります。
一方、宿泊料を受け取らずに人を宿泊させる場合や、宿泊料は受け取るものの宿泊目的ではない場合(例:居酒屋など)は、旅館業の定義から外れます。
旅館業の種類
旅館業法では、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業、下宿営業の4種類に分類されています。
- ホテル営業: 主にホテルがこれに該当します。
- 旅館営業: 旅館やリゾートホテルなどが該当します。
- 簡易宿所営業: 安価で簡素な設備の宿泊施設がこれに当たります。民泊も含まれます。
- 下宿営業: アパートなどの長期滞在型の宿泊施設が該当します。
それぞれの営業種別によって、施設に求められる構造設備基準が異なります。開業時にはどの種別で許可を取得するかを決める必要があります。
営業許可申請の手順
旅館業を開業するには、所在地を管轄する保健所に営業許可を申請しなければなりません。申請手順は以下の通りです。
事前相談
まずは営業予定地の保健所に事前相談を行います。この際、開業する施設の構造や設備について説明し、許可の可能性や必要書類を確認します。保健所の指導に従い、計画を具体化していきます。
事前相談の際は、施設の概要がわかる図面や資料を用意しましょう。保健所によっては、事前に資料を送付する必要がある場合もあります。
書類の準備
次に必要書類一式を準備します。主な書類は以下の通りです。
- 営業許可申請書
- 施設の構造設備に関する書類(平面図、立面図、構造概要書など)
- 法人の場合は登記事項証明書や定款の写し
- 水質検査成績書
- 消防法令適合通知書
保健所によって求められる書類は異なるため、事前相談時の指示に従って準備しましょう。
申請と審査
書類一式が揃ったら、保健所に営業許可申請を行います。この際、手数料(おおむね22,000円程度)の支払いが必要です。
申請後は保健所による書類審査と現地調査が行われます。施設が旅館業法の基準を満たしていれば、営業許可が下ります。審査期間は申請から2週間程度が目安です。
施設の構造設備基準
旅館業の営業許可を得るためには、施設が一定の構造設備基準を満たす必要があります。
客室の基準
客室については以下の基準が定められています。
基準項目 | 内容 |
---|---|
床面積 | 1人あたり3.3平方メートル以上 |
天井高 | 2.1メートル以上 |
採光・換気 | 開口部の面積が一定以上 |
寝具 | 清潔な布団や寝具を用意 |
簡易宿所営業の場合は、一部基準が緩和されています。例えば客室の床面積基準は1人あたり1.98平方メートル以上となっています。
設備関連の基準
客室以外にも、以下の設備関連の基準が定められています。
- 洗面設備、便所、シャワー室などの衛生設備が適切に設置されていること
- 玄関には宿泊者の確認ができる設備を設置すること
- 避難経路や非常口が適切に設けられていること
- 廊下の幅員や傾斜角度が一定の基準を満たすこと
これらの基準は宿泊者の安全と衛生面を確保するために設けられています。開業時には入念にチェックが行われます。
変更や廃止の手続き
一旦営業許可を得た後でも、施設の増改築や営業者の変更など、一定の変更があれば手続きが必要です。
施設の増改築や移転
施設を大規模に増改築する場合や移転する場合は、新規の営業許可申請が必要となります。事前に保健所に相談の上、改めて許可を取り直す必要があります。
小規模な増改築の場合は、「営業許可施設変更届」を提出することで対応できます。
営業者の変更
営業者が変更になる場合(例:相続、事業譲渡など)も、「営業者変更許可申請」が必要です。この場合の手数料は7,500円程度です。
営業者が変更になっても、すでに許可を受けている施設の構造や設備に変更がなければ、比較的簡単に許可が下りる傾向にあります。
営業の廃止
旅館業を廃止する際は、「営業廃止届」を保健所に提出する義務があります。廃止届が提出されないと、旅館業法違反となる可能性があります。
まとめ
旅館業の営業許可制度は、宿泊施設の衛生面と安全性を確保するための重要な仕組みです。開業時には法令を十分に理解し、必要な手続きを確実に行う必要があります。事前相談に始まり、書類作成、申請、審査と一連の手順を踏んでいきましょう。
一方、営業許可を取得した後も、施設の増改築や営業者変更があれば適切な手続きが求められます。さらに、衛生管理義務や宿泊者名簿の作成など、営業中の義務についても理解しておく必要があります。
旅館業の健全な発展と利用者の安全・安心の確保のため、旅館業法を遵守することが何より重要です。本記事が皆さまの旅館業開業の一助となれば幸いです。