はじめに
旅館業を営もうとする場合、法令により様々な手続きと要件を満たす必要があります。旅館業法はその中核をなす法律で、宿泊サービスを提供する事業者に対し、施設の構造設備基準や営業許可の取得を義務付けています。本記事では、旅館業の許可取得に関する重要ポイントを、分かりやすく解説していきます。
旅館業法の概要
旅館業法は、「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」を旅館業と定義しています。つまり、民泊サービスのように個人宅を活用した宿泊事業でも、不特定多数の人を対象とする場合は同法の適用を受けることになります。
旅館業の種類
旅館業には以下の4種類があり、それぞれ施設の構造設備基準が異なります。
- ホテル営業
- 旅館営業
- 簡易宿所営業
- 下宿営業
特に簡易宿所営業は、多数の宿泊者が宿泊施設を共用する場合に該当します。民泊事業においては、簡易宿所営業の許可取得が想定されます。
営業許可の必要性
旅館業法上、不特定多数の人を対象に宿泊サービスを提供し、宿泊料を受け取る場合は、営業許可が必要不可欠です。許可を得ずに営業を行うと、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金に処される可能性があります。
一方、友人知人など限られた人のみを対象とする場合は、社会性や継続性がないため、営業とは見なされず許可は不要です。
営業許可の取得手続き
営業許可の取得には、所定の手続きと書類の提出が求められます。主な手順は次の通りです。
事前相談
まずは施設の所在地を管轄する保健所に事前相談をします。旅館業指導グループに日程を調整の上、相談に訪れましょう。施設の概要を説明し、法的要件を確認することができます。
また、建築や消防など他の関連機関とも事前相談を行うことをおすすめします。
申請書類の作成・提出
次に、営業許可申請書と各種添付書類を作成し、保健所に提出します。主な添付書類は以下の通りです。
- 施設の平面図、構造設備概要書
- 登記事項証明書
- 消防法令適合通知書
- 建築基準法の検査済証の写し
手数料として22,000円が必要です。
施設の検査
書類審査の後、保健所職員による施設の実地検査が行われます。客室の面積や設備、消防設備など、法令の基準に適合しているかを確認されます。
旅館業の構造設備基準
営業許可の可否は、施設の構造設備が法令の基準を満たしているかどうかが大きなポイントとなります。主な基準は以下の通りです。
客室に関する基準
項目 | 基準 |
---|---|
面積 | 宿泊者1人当たり3.3㎡以上 |
採光・換気 | 適切な採光と換気が必要 |
防湿・排水 | 防湿と排水設備が求められる |
また、寝具の収納設備や宿泊者の確認設備(玄関帳場など)も義務付けられています。
衛生設備に関する基準
- 洗面設備の設置が必須
- 便所は客室別に設置するか、共同で設置
- シャワー室またはおけ風呂の設置
これらの設備については、構造や数、清潔の維持などの要件が細かく定められています。
その他の基準
学校や保育所の周辺にある施設は、善良の風俗を害する恐れのある設備を設置してはいけません。また、広告物についても一定の制限があります。
一方、一時的な施設や農林漁業体験民宿については、一部の基準が緩和される場合があります。
変更や承継の手続き
営業許可取得後も、様々な場合に手続きが必要となります。
変更の届出
営業者の変更や施設の大規模な増改築を行う場合は、変更後10日以内に変更届を提出する必要があります。必要書類は変更内容によって異なります。
廃止・停止の届出
営業を廃止または一時停止する場合は、10日以内に届け出ます。この際、営業許可書の添付が求められます。
営業の承継
個人事業主が死亡した場合、相続人が営業を承継するには被相続人の死亡から60日以内に申請が必要です。法人の合併・分割の場合も同様です。
また令和5年12月13日以降は、営業の譲渡の際にも承継承認申請が義務付けられました。
まとめ
旅館業の許可取得は、宿泊サービス事業を適切に運営するための重要な手続きです。施設の構造設備基準など、細かい要件を満たす必要があります。営業前の許可申請から、営業中の変更届出、承継手続きに至るまで、法令を十分に理解し、必要な手続きを確実に行うことが不可欠です。
旅館業法の適用を受ける事業者は、宿泊サービスを安全・安心に提供するという社会的責任を有しています。地域住民との協調も重要視され、風紀維持や近隣トラブル防止が求められます。法令を遵守しつつ、宿泊サービス業の健全な発展に寄与していくことが大切です。