はじめに
民泊ビジネスが日本でも広く普及している昨今、このビジネスを適切に営むためには、関連する法制度をしっかりと理解する必要があります。旅館業法と住宅宿泊事業法(民泊新法)は民泊に関わる主要な法律であり、それぞれのメリット・デメリットを把握することが不可欠です。本記事では、これら2つの法律の違いや特徴、手続きについて詳しく解説します。民泊ビジネスに関心のある方は、ぜひ参考にしてください。
旅館業法と住宅宿泊事業法の違い
民泊に関する法制度は主に旅館業法と住宅宿泊事業法(民泊新法)の2つで規定されています。両者には目的や対象が異なり、それぞれメリット・デメリットがあります。ここでは、主な違いについて紹介します。
目的と対象
旅館業法は、安全で衛生的な宿泊施設の確保を目的としており、主に旅館やホテルなどの伝統的な宿泊事業を対象としています。一方、民泊新法は住宅を活用した短期宿泊サービスの普及を目指しており、観光振興を狙いとしています。
旅館業法では宿泊施設のハード面での規制が厳しい一方、民泊新法では安全面や衛生面での最低限の基準を定めるにとどまり、比較的緩やかな規制となっています。
営業日数と場所の制限
旅館業法では営業日数に制限はありませんが、用途地域の制限があり、原則として住居専用地域以外の地域でしか営業できません。一方、民泊新法では年間180日以内の営業日数制限がありますが、住居専用地域を含むほとんどの地域で営業が可能です。
このように、旅館業法と民泊新法では、営業日数と営業可能地域がトレードオフの関係にあります。自身のニーズに合わせて、適切な制度を選ぶ必要があります。
手続きと費用
旅館業法に基づく営業には、許可申請が必要で審査が厳しく、専門家の助言を求める必要があります。一方、民泊新法では届出が必要ですが、基準を満たせば原則として認められます。
また、旅館業法の場合は建築基準法上の用途変更が必要で、消防設備の設置なども求められるため、初期費用がかさみます。民泊新法では基本的に用途変更は不要で、設備要件も緩やかです。
旅館業法に基づく民泊の手続き
旅館業法に基づいて民泊を営む場合、以下の手続きが必要になります。
許可申請
まず、所管行政庁(都道府県又は保健所を設置する市)に対して、簡易宿所営業の許可申請を行います。審査が厳しく、構造設備の基準を満たす必要があるため、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
許可申請には、申請書の他、建築確認済証の写しや消防同意書など、様々な書類の提出が求められます。
建築基準法上の用途変更
民泊の用に供する建物については、建築基準法上の用途を「ホテル又は旅館」に変更する必要があります。このためには、建築確認申請と検査済証の交付を受ける手続きが必要です。
用途変更には、階段や廊下の幅員、非常用進入口の設置など、様々な構造基準を満たす必要があり、工事が伴う場合もあります。
消防法に基づく設備の設置
簡易宿所営業を営む場合は、消防法に基づき、一定規模以上の建物には消火設備や非常警報設備などを設置する義務があります。これらの設備工事には多額の費用がかかる可能性があります。
また、防火管理者の選任や消防計画の作成・届出なども義務付けられています。
住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく民泊の手続き
住宅宿泊事業法は2018年6月に施行された新しい法律で、住宅を活用した民泊サービスを適切に規制することを目的としています。この法律に基づいて民泊を営むには、以下の手続きが必要です。
届出
住宅宿泊事業を営もうとする者は、あらかじめ、住宅宿泊事業者として都道府県知事等に届け出る必要があります。届出には、住所や事業の概要、責任者の氏名などを記載した書類の提出が求められます。
基準を満たしていれば、届出は原則として認められます。しかし、立入検査で違反が確認された場合は、営業の全部又は一部の停止を命じられる可能性があります。
家主居住型と家主不在型
住宅宿泊事業には、「家主居住型」と「家主不在型」の2種類があります。家主居住型とは、宿泊者の受け入れに当たって家主が現に居住する住宅で営む事業です。家主不在型は、そうでない場合を指します。
家主居住型の場合は、事業者自身が衛生確保や苦情対応などの措置を講じる必要があります。一方、家主不在型では、これらの措置を住宅宿泊管理業者に委託しなければなりません。
住宅宿泊管理業者と住宅宿泊仲介業者
住宅宿泊管理業者とは、家主不在型の事業者から委託を受けて、衛生確保や苦情対応などの措置を行う事業者です。国土交通大臣の登録が必要です。
住宅宿泊仲介業者とは、住宅宿泊事業者と宿泊者の仲介を行う事業者で、観光庁長官の登録が義務付けられています。
これらの登録業者には、適正な業務遂行のための措置が義務付けられています。
法制度を踏まえた上での民泊ビジネス展開
以上のように、民泊に関する法制度は複雑化しています。事業者は、自身の目的や条件に合わせて、旅館業法と民泊新法のどちらを選択するかを慎重に検討する必要があります。
法令遵守の重要性
無許可で民泊を営むと、旅館業法違反となり、罰則の対象となる可能性があります。また、届出義務違反などの民泊新法違反にも制裁がありますので、関連法令を遵守することが重要です。
法令違反は、営業停止命令や過料などのリスクがあり、民泊ビジネスの継続に重大な影響を与えかねません。事業を安定的に継続するためにも、法令遵守は不可欠です。
地域との共生
特に民泊新法では、近隣住民への事前説明や苦情対応が義務付けられています。民泊は地域住民の理解と協力なくしては成り立ちません。騒音や迷惑行為を防ぐ対策を講じ、地域と共生できる民泊運営を心がける必要があります。
一部の民泊施設でのトラブルが、全体のイメージを損なうリスクもあります。業界全体で民泊のルールを守り、健全な民泊文化を育むことが求められています。
適切な制度の選択
民泊ビジネスを始める際は、自身の目的や条件に合わせて、旅館業法と民泊新法のどちらを選択するかを検討する必要があります。下表は両者の主な違いをまとめたものです。
旅館業法 | 民泊新法 | |
---|---|---|
営業日数 | 無制限 | 年間180日まで |
営業可能地域 | 住居専用地域以外 | ほとんどの地域 |
手続き | 許可申請(審査あり) | 届出(原則認められる) |
初期費用 | 高額(用途変更、設備工事など) | 比較的低額 |
例えば、年間を通して営業したい場合は旅館業法を、短期的に運営したい場合は民泊新法を選ぶといった具合です。いずれにしても、事前に専門家に相談し、リスクを十分に検討することが賢明です。
まとめ
民泊ビジネスは観光需要の高まりから今後もますます発展が見込まれますが、関連する法制度をしっかりと理解しなければなりません。旅館業法と民泊新法(住宅宿泊事業法)には、それぞれメリット・デメリットがあり、自身の事業目的やニーズに合わせて適切な選択をする必要があります。また、法令を遵守し、地域との調和を図ることも欠かせません。民泊ビジネスを安定的に継続するためには、事前の準備と知識が何より大切なのです。