はじめに
民泊ビジネスは近年急速に成長を遂げており、多くの人々がその可能性に注目しています。しかし、一方で法的な規制もあり、民泊を開始する前には様々な準備が必要となります。本記事では、民泊を始めるうえで欠かせない「旅館業法」について、詳しく解説していきます。
民泊ビジネスと旅館業法
民泊ビジネスを始める際に、最も重要なのが「旅館業法」の理解です。この法律は、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業活動を規定しており、民泊サービスも該当します。
旅館業法の概要
旅館業法では、旅館業を「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義しています。この定義に該当する場合、旅館業の許可が必要となります。許可を得るには、都道府県の保健所に申請する必要があり、施設の構造設備基準などの要件を満たす必要があります。
この法律の背景には、施設の衛生管理や宿泊者の確認など、営業者に一定の責任が課されることにあります。一般の賃貸業とは異なり、旅館業では客室の広さや換気、トイレの設置など、さまざまな基準が定められています。
民泊サービスと旅館業法
民泊サービスも、旅館業法の定義に当てはまる場合が多くあります。特に、インターネットを利用して不特定多数の人を募集し、繰り返し人を宿泊させるような場合は、許可が必要となります。
一方で、友人や知人を一時的に宿泊させる場合は、「社会性をもって」いないため、許可は不要とされています。しかし、この線引きは難しく、注意が必要です。
簡易宿所営業の許可要件緩和
民泊ビジネスの拡大に伴い、2016年4月に旅館業法施行令が改正され、簡易宿所営業の許可要件が緩和されました。一度に10人未満の宿泊者を受け入れる施設であれば、より容易に許可を取得できるようになりました。
ただし、自己所有の建物を使用する場合や、賃貸物件を使用する場合でも、転貸の可否や立地規制など、様々な確認が必要です。特に分譲マンションでは、管理規約の確認が欠かせません。
民泊新法と旅館業法の違い
2018年6月に施行された「住宅宿泊事業法」(民泊新法)により、民泊ビジネスをより適切に行うための枠組みが整備されました。この新法と従来の旅館業法には、いくつかの違いがあります。
営業日数の制限
旅館業法の許可を得た施設には、営業日数の制限はありません。一方、民泊新法では、年間180日以内での営業が義務付けられています。
長期的な収益を考えれば、旅館業法の許可を得ることがメリットとなります。ただし、許可取得のハードルが高いことも事実です。
用途地域の制限
旅館業法の許可を得る場合、都市計画法上の用途地域による制限があります。一方、民泊新法では、住居専用地域でも営業が可能となっています。
例えば、マンションの一室を活用する場合、民泊新法のほうが現実的な選択肢となるでしょう。
フロント設置の義務
旅館業法の許可施設では、一般的にフロントの設置が義務付けられています。自治体によってはこの規定が緩和されている場合もありますが、民泊新法ではフロントの設置は不要です。
民泊の場合、宿泊者への対応は事業者自身が行うことになります。その点を考慮して、サポート体制を整える必要があります。
許可申請と手続き
民泊ビジネスを始めるにあたり、旅館業法の許可申請や民泊新法の届出申請が必要となります。どちらの手続きを選ぶかによって、準備する書類や対応が異なってきます。
旅館業法の許可申請
旅館業法の許可を得るためには、様々な基準を満たす必要があります。主な要件としては以下のようなものがあります。
- 客室の面積基準(一室あたり3.3㎡以上)
- 消防設備の設置義務
- 用途地域や周辺施設による立地規制
この他にも、建築基準法や消防法、水質汚濁防止法など、様々な法令を確認し、許可申請の書類を準備する必要があります。専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
民泊新法の届出申請
一方、民泊新法に基づく届出申請は、比較的簡単な手続きとなっています。ただし、営業日数の制限や、家主居住型/家主不在型による義務の違いなど、守るべきルールがあります。
届出申請時に必要な書類は以下の通りです。
- 住宅宿泊事業者届出書
- 宿泊者名簿等管理規程
- 住宅宿泊事業の実施に関する説明書
家主不在型の場合は、住宅宿泊管理業者との委託契約書なども必要になります。
立入検査と指導
民泊サービスを提供する上で、行政による立入検査を受けることがあります。旅館業法と民泊新法のいずれの場合も、無許可営業は厳しく取り締まられます。
違反が発覚した場合、是正指導や営業停止命令、さらには罰金刑などの処分を受ける可能性があります。適切な手続きと法令遵守が重要です。
民泊ビジネスを始めるにあたって
民泊ビジネスを始めるにあたっては、旅館業法と民泊新法のどちらに従うかを、自身のニーズに応じて判断する必要があります。
旅館業法が適している場合
- 年間を通して営業したい場合
- 収益の最大化を図りたい場合
- 用途地域や建築基準法への適合が見込める場合
旅館業法の許可を取得すれば、民泊新法のような制限がなくなるメリットがあります。ただし、審査が厳しく、手続きも複雑になります。
民泊新法が適している場合
- 年間180日以内の営業しか見込めない場合
- 家主滞在型の民泊を行いたい場合
- 用途変更や建築基準法への適合が難しい場合
民泊新法なら、比較的簡単に開業できます。ただし、営業日数の制限や義務事項があることに留意が必要です。
地域の条例や規制の確認
さらに、民泊ビジネスを始める際は、各自治体の条例や規制についても確認しましょう。例えば、大津市や箱根町など、一部の地域では独自のルールが設けられています。
民泊の実施可能エリアや、立地規制、周辺への事前説明の必要性など、地域ごとに異なる点があるためです。
まとめ
民泊ビジネスは今後さらに拡大していくと考えられますが、適切な許可や届出を怠ると、重い処分を受けるリスクがあります。旅館業法と民泊新法のどちらに従うべきかは、状況に応じて判断する必要があります。
収益性を最大化したい場合は、旅館業法の許可取得を目指すと良いでしょう。一方で、比較的小規模な民泊を行う場合は、民泊新法に基づく届出で対応できます。いずれの場合も、自治体の条例や規制を把握し、法令を遵守することが何より重要です。
民泊ビジネスへの参入を検討する際は、本記事を参考に、しっかりと準備を重ねてください。