はじめに
旅館業とは、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業のことを指します。旅館やホテル、簡易宿所などの宿泊施設を運営する場合は、旅館業法に基づく営業許可が必要になります。本ブログでは、旅館業の許可に関する様々な点について詳しく解説していきます。旅館業を始めるにあたり、許可の必要性や手続き、施設基準などの重要事項を押さえましょう。
許可の必要性
旅館業の許可が必要となるのは、営業形態や宿泊施設の状況によって異なります。主に、以下のような場合に許可が必要となります。
宿泊料を徴収する場合
不特定多数の人を対象に宿泊サービスを提供し、宿泊料を受け取る場合は、旅館業の許可が必要です。つまり、単に知人や友人を無償で宿泊させるのであれば許可は不要ですが、宿泊料を徴収するビジネスモデルの場合は許可が求められます。
なお、宿泊料と銘打っていなくても、実質的に宿泊の対価を受け取る場合も、許可の対象となります。例えば「体験料」と称して金銭を徴収しつつ宿泊させるようなケースです。
社会性と継続反復性がある場合
個人が自宅の一部を利用して人を宿泊させる場合でも、「社会性をもって継続反復されているもの」と見なされれば、旅館業の許可が必要になります。一時的な行為ではなく、ビジネスとして継続的に営む場合が該当します。
ただし、単発的な行為や、個人的な範囲内の宿泊提供であれば、許可は不要とされています。営業性を持つか否かが重要な判断基準となります。
住宅宿泊事業やエリア限定の特例を利用しない場合
個人が自宅の一部を活用して宿泊サービスを提供する民泊は、住宅宿泊事業法や国家戦略特別区域法に基づく特例の対象となる場合があります。しかし、これらの制度を利用せずに一般的な旅館業として営む場合は、従来の旅館業法に基づく許可が必要になります。
住宅宿泊事業法による届出や、特区民泊の認定を受けていないケースでは、通常の旅館業許可が求められるのです。
許可手続き
旅館業の許可を得るには、所定の手続きを経る必要があります。主な手順は以下の通りです。
保健所への相談と事前準備
まずは、営業を予定している施設の所在地を管轄する保健所に相談します。許可申請に必要な書類や手続きの流れ、施設の基準などについて詳しく説明を受けることができます。また、事前に施設の概要を確認してもらい、アドバイスを得ることが重要です。
申請に必要な書類としては、施設の平面図や設計図、消防法令適合通知書、申請者の身分証明書類などがあります。これらの書類を事前に準備しておきましょう。
申請書の提出と手数料の納付
必要書類を揃えた上で、営業許可申請書を作成し、保健所に提出します。同時に、手数料(通常は22,000円程度)を納付する必要があります。申請から許可書の交付までには、概ね2週間程度を要します。
申請時には、施設の構造設備が法令の基準を満たしているかどうかについても確認されます。基準に適合していない場合は、許可が下りないことがあります。
施設検査と許可書の交付
申請書類の審査後、保健所職員による施設の検査が行われます。この検査で施設が基準を満たしていると判断された場合、許可書が交付されます。許可書が交付されれば、正式に旅館業の営業を開始することができます。
施設検査では、客室の広さや設備、浴室の状況、衛生管理体制など、様々な項目について確認が入ります。事前の準備が重要です。
施設基準
旅館業の許可を受けるためには、施設が一定の構造設備基準を満たす必要があります。主な基準は以下の通りです。
客室の基準
客室の面積基準として、旅館は1人あたり3.0平方メートル以上、簡易宿所は2.2平方メートル以上が求められます。また、適切な換気設備、採光設備、照明設備、防湿設備、排水設備を備えている必要があります。
客室には、寝具収納設備や洗面設備、便所を適切に設置しなければなりません。さらに、客室の定員超過は認められていません。
浴室の基準
浴室については、入浴設備や脱衣室の設置が義務付けられています。男女別の区分や、洗い場の構造、給水設備なども基準が定められています。浴槽を循環式にする場合は、衛生管理体制を整備する必要があります。
一定規模以上の施設では、大浴場を設置することが求められる場合もあります。
衛生管理の基準
施設全体の清潔保持、ねずみや昆虫の駆除、寝具の衛生管理など、様々な衛生措置を講じることが義務付けられています。飲料水の水質基準も定められており、定期的な検査が必要です。
さらに、ガス暖房設備を設置する場合は使用方法の注意書を掲示しなければなりません。危険物の取り扱いにも十分注意が必要です。
立地や広告物の基準
施設の立地場所によっては、学校や保育所などの周辺では、照明設備や客室の構造などに特別な基準が課される場合があります。性的好奇心をそそるおそれのある広告物や設備は避けなければなりません。
施設の外観や広告物の構造については、周囲の環境と調和したものでなければならず、善良の風俗を害するようなものは認められていません。
その他の義務
旅館業を営む上では、営業許可を得ることに加え、様々な義務が課されています。
宿泊者名簿の作成と本人確認
宿泊者の氏名、住所、職業などを記載した宿泊者名簿を作成し、一定期間保存する義務があります。また、宿泊者の本人確認を適切に行う必要があり、そのための設備を備えることが求められています。
宿泊者名簿は、行政機関から提出を求められた場合に備え、適切に管理しなければなりません。
従業員への研修実施
高齢者や障害者、アレルギー疾患を持つ宿泊者など、特に配慮を要する人に対して、適切なサービスを提供できるよう、従業員への研修実施が義務付けられています。
研修の内容としては、介助方法やコミュニケーション方法、問題が生じた際の対応などが含まれます。従業員一人ひとりが適切な知識と態度を身に付けることが重要です。
変更届出や季節営業の再開届出
施設名称や営業者の変更があった場合は、速やかに変更届を提出する必要があります。また、季節的に営業を休止していた施設を再開する際は、再開届の提出が求められます。
このように、許可を受けた後も、様々な手続きや届出が義務付けられています。これらをおろそかにすると、許可の取り消しや営業停止命令を受ける可能性があります。
まとめ
旅館業を営むには、旅館業法に基づく営業許可が必要不可欠です。許可を得るためには、施設の構造設備基準を満たすことが大前提となります。客室の面積や設備、浴室の状況、衛生管理体制など、様々な項目について法令で細かく定められています。
許可申請の際は、事前に管轄の保健所に相談し、手続きや必要書類を確認することが重要です。申請後は施設検査を経て、基準を満たせば許可書が交付されます。許可を得た後も、宿泊者名簿の管理や従業員研修の実施、変更届出などの義務が課されるため、関係法令を遵守し続ける必要があります。
旅館業は宿泊サービスを提供するだけでなく、安全性と衛生面での一定の品質を確保する責務があります。適切な許可を得て、法令を遵守しながら営業することが何より大切なのです。