はじめに
空き家問題は日本全国で深刻化しており、有効な対策が求められています。その中で注目されているのが、空き家を民泊として活用することです。地域の活性化と所有者の収益確保の両立を可能にするこの取り組みは、様々な成功事例を生み出しています。本記事では、空き家の民泊活用について、その背景と利点、具体的な成功例、そしてデメリットと対策までを詳しく解説します。
空き家民泊の背景と利点
空き家の増加と外国人観光客の急増が、民泊ビジネスの可能性を高めています。この節では、そうした背景を踏まえ、空き家を民泊として活用するメリットについて掘り下げます。
空き家問題と外国人観光客の増加
総務省の調査によると、2018年時点で全国の空き家数は約846万戸に上ります。所有者の高齢化や人口減少により、今後さらに増加が見込まれています。一方で、訪日外国人観光客数は年々増加の一途をたどり、2019年には3,188万人に達しました。その結果、ホテルや旅館の宿泊施設が不足する状況が生じています。
このように、空き家が増える一方で宿泊需要が高まっているため、空き家を活用した民泊サービスに注目が集まっているのです。空き家の有効活用と宿泊需要の受け皿を同時に実現できる点が、民泊の大きな魅力となっています。
民泊の利点
民泊には、次のような利点があります。
- 低価格での宿泊が可能
- 地域の雇用創出や活性化につながる
- 空き家の収益化が図れる
- 個性的な宿泊体験を提供できる
民泊は一般のホテル等に比べて宿泊料金が安いため、価格重視の外国人観光客に人気があります。また、地域の雇用を生み出し、地域の魅力を発信できるため、活性化にもつながります。さらに、使われていなかった空き家を宿泊施設として活用することで、所有者は新たな収入源を得ることができます。加えて、一般の宿泊施設とは異なる個性的な体験を提供することが可能です。
空き家民泊の成功事例
様々な地域で、空き家を活用した民泊の成功例が生まれています。この節では、代表的な事例を複数ご紹介します。
和歌山県湯浅町「千山庵」
和歌山県湯浅町にある「千山庵」は、空き家だった古民家をリノベーションした貸切民泊施設です。上野さんが町と協力して実現したこのプロジェクトでは、建物の雰囲気を残しつつ、現代的な設備を導入しました。その魅力から、テレビや雑誌などのメディアにも多数取り上げられる人気スポットとなりました。
上野さんは地元の特産品販売からビジネスモデルを転換し、補助金を得ながら空き家活用に取り組みました。このように、自治体の協力を得ながら事業を進めたことが、「千山庵」の成功の鍵となっています。
篠山城下町ホテルNIPPONIA
兵庫県篠山市の篠山城下町ホテルNIPPONIA(ニッポニア)は、築100年超の古民家4棟を改装して作られた宿泊施設です。伝統的な建物の雰囲気とモダンな内装を融合させたコンセプトが高い評価を受け、国内外から多くの観光客を集めています。
同社の成功要因は、以下の3点が挙げられます。
- 顧客ニーズに合致した資源の有効活用
- 地域コミュニティーの活性化
- 公的機関との連携
地域資源を上手く活かしたコンセプトと、行政との協力体制が奏功した好例といえるでしょう。
阿波おどり民泊・伊江村修学旅行民泊
阿波おどりイベント時に38部屋が民泊として稼働した徳島市や、サトウキビ収穫体験などを提供する沖縄県伊江村の修学旅行民泊なども、地域と連携した成功例です。
これらの取り組みでは、教育旅行や祭りなどのイベントに合わせて空き家を活用しています。民泊を単なる宿泊施設としてだけでなく、地域の文化体験の場として位置づけたことが成功の理由といえるでしょう。
空き家民泊のデメリット
一方で、空き家を民泊として活用する際には、いくつかのデメリットも存在します。この節では、主なデメリットとその対策をご紹介します。
収益の不安定さと副業扱い
民泊事業は季節変動の影響を受けやすく、繁忙期と閑散期の差が大きいのが実情です。また、景気変動の影響も免れません。そのため、本業として民泊経営を行うのは難しく、副業としての位置づけが一般的です。
収益の安定性を高めるには、繁忙期と閑散期でプランを使い分けたり、宿泊以外の収益源(レンタルスペースなど)を持つことが有効です。複数の収入源を確保することが重要といえます。
運営の手間と初期コスト
民泊開業には、以下のような手間とコストがかかります。
- 物件の確認や書類の準備
- 民泊仲介サイトへの登録手続き
- 内装のリノベーションなどの初期費用
特にリノベーションコストは馬鹿になりません。一方、自治体の補助金を活用したり、民泊代行業者と契約することで、手間とコストを抑えることができます。
トラブルリスクと法規制
不特定多数の宿泊客を受け入れることで、トラブル発生のリスクも高くなります。宿泊客による施設の破損や、マナー違反などの問題が起こる可能性があります。また、住宅宿泊事業法など、法的規制にも対応しなければなりません。
トラブル対策としては、宿泊ルールの明確化と案内、民泊保険への加入などが有効でしょう。自治体への相談や住民への周知活動も重要です。こうした対策を怠らず、適切に運営することが不可欠となります。
成功に向けての取り組み
デメリットを踏まえつつ、空き家を民泊として成功させるための取り組みについてご紹介します。
効率化とユニーク性の両立
民泊経営を成功に導くには、業務の効率化と、ユニークな価値提供の両立が欠かせません。
まず業務効率化のためには、予約管理システム、スマートロック、セルフチェックインシステムの導入が有効です。一方で、農業体験やレトロな校舎宿泊、ホームステイなど、地域色豊かな独自の体験価値を提供することが重要となります。
業務効率化 | ユニーク性の創出 |
---|---|
・予約・客室管理システム ・スマートロック導入 ・セルフチェックインの実現 |
・農家民宿体験 ・レトロな校舎泊 ・ホームステイ型の交流 |
このように、システム導入による効率化と、地域資源を生かした付加価値創出を両立させることが、民泊の成功の鍵となります。
分散型ホテルなど新しい取り組み
空き家を個別に運営するだけでなく、複数の民泊を連携させた分散型ホテルなども注目されています。イタリアで始まったこの手法は、日本の地方部でも広がりつつあります。
また、NFTなどの新しいテクノロジーを活用して、DAO的な運営体制を構築する試みもあります。空き家の所有者や民泊事業者、観光客がメンバーとなり、共同で運営することで、効率化やサービス向上を目指すのが狙いです。
このように、新しい技術の活用や運営体制の工夫により、従来の民泊経営を進化させる動きも出てきています。
まとめ
本記事では、空き家を民泊として活用する取り組みについて、その背景や利点、成功事例、デメリットと対策、さらには最新の動向までをご紹介しました。
空き家問題と外国人観光客の増加を背景に、民泊ビジネスが注目を集めています。空き家の有効活用と宿泊需要の受け皿を同時に実現できることが、民泊の大きなメリットといえます。一方で、収益の不安定さや手間、トラブルリスクといったデメリットもあり、それらへの対策が重要となります。
今後は、効率化とユニーク性の両立、分散型ホテルや新技術の活用など、新たな取り組みが広がると予想されます。自治体の支援策の充実とともに、こうした動きを注視していく必要があるでしょう。
空き家の民泊活用は、地域活性化と所有者の収益確保の両立を可能にするソリューションです。各地域の特性を生かしながら、この可能性を最大限に引き出していくことが期待されています。